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コンタクト・インプロビゼーション 用語集

序文 / Foreword

私のコンタクト・インプロビゼーション(CI)友人のRichard Kimさんは、彼のCI のブログ (英語) に、CIに関する素晴らしい用語集のページを載せています。

この用語集は、日本人のコンタクトダンサーや CIに興味のある方々にも役立つのではないかと、ある日ふと思いつきました。そして、彼の許可を得て、いくつかの用語を翻訳してみました。これらの用語は、主に日本で使用されているものや、海外の講師がクラスやワークショップ (WS)で使用していたものを基にしています。*印の用語や記載箇所は、私が補足として加えた内容です。スキルに関連する用語の後に写真をあまり使用していない理由は、CI には特定の「フォーム」が存在しない(正しい・正しくないという固定概念がない)と感じているためです。また、最近は CI のスキルを紹介する動画がYouTubeなどで容易に見つかることもあり、この用語集では動画や写真の使用を控えています。

 

最後に、「全部覚えないと〜!」なんて思う必要は全くありません。もちろん、用語を知っていると役立つ場面もあるかもしれないし、CI のラボやご自身のリサーチ、あるいはCI を教える際に活用できるかもしれません。何より大切なのは、身体を通じて学び、理解していくことだと思っています。この用語集が今後さらに発展し、改善されていくことを願っています。もしリクエストやご提案がありましたら、ぜひご連絡ください。

This CI glossary; inspired and translated from Richard Kim's glossary on his CI blog, is for Japanese contact dancers who may be unfamiliar with CI terms that are often used in CI contexts. For those of you who are English speakers, please refer to the original blog. Since much of the CI terminology is in English (i.e., even when presented in Japan),  I felt it may be helpful to have a glossary for Japanese CI dancers and enthusiasts. When I first started learning CI in the US, Richard's CI blog page helped me in a myriad of ways. My hope is for this glossary to be helpful in similar ways. Lastly, I just want to note that the subtitle used on this site, "facilitating connections via my favorite post-modern art sport" is also inspired from his blog.  Much gratitude to Richard! ​

rolling point of contact

コンタクト インプロビゼーション

 

このサイトの「コンタクト・インプロビゼーションとは何か?」(What is contact improvisation?)というページをご覧いただければ、詳しい情報をご確認いただけます。

 

「コンタクト・インプロビゼーション」を短縮する言い方はさまざまです。

  • 「コンタクト」とは、会話の中で「コンタクト・インプロビゼーション」を短縮する最も一般的な言い方です。たとえば、「今週の土曜日、中野にコンタクトしに行くよ」など。

  •  “ CI ” は書面によるコミュニケーションでよく使われる略語で、このサイトでも使用しています。日本でもCIのコミュニティの名前などに使用されていますね。例えば “CI brisa KyotoCIあいちなど。

  • Contact improvisation / コンタクト・インプロビゼーションの後半を略す、   ”contact improv” もあります。日本ではコンタクト・インプロと略されます。ヨーロッパとラテンアメリカでも時々 “contact impro” “v” をなくす略し方も使用されています。

ローリング・ポイント・オフ・コンタクト / rolling point of contact  

日本語に直訳すると「転がる接触点」となりますが、WSやクラスでは主に英語の「ローリング・ポイント(オフ・コンタクト)」という表現が使われます。これは、2つの身体が特定の領域、つまり「接触点(ポイント・オブ・コンタクト)」で触れ合うことを指します。この接触点は、触れ合ったまま転がったり、滑ったり(スライドしたり)することができます。

:  上述の「ローリング・ポイント・オフ・コンタクト」は主に接触点を示すために使われる用語ですが、CI の定番エクササイズにも同名のものがあります。このエクササイズでは、常に接触点を転がす練習を行い、滑ったり、飛ばしたりすることなく、パートナーと接触点を少しずつ慎重に動かしていくことを目的としています。これは、CI を踊る前の「準備」として非常に役立つ練習です。

さらに、直接身体で接触する前に、風船や小さなエクササイズボールを利用して、パートナーと一緒にそれらを落とさないよう転がす練習を行うことも効果的です。

 

ジャム / jam 

社交的に CI を踊りたい人々が自由に集まり、自由に踊ることができる「場」や「空間」のことを指します。ジャムで踊るCIは自分の練習やリサーチの為で「社交的」という言葉に反対する人もいるかもしれません。それでも、ほとんどの人がジャムに参加する理由としては、他のダンサーたちとの雰囲気を楽しむことや、さまざまなダンスパートナーと踊ること、新しいパートナーと出会うこと、ダンスを中断してテクニックについて語り合ったり練習したりすることを期待せずに CI を行うためだと思います (勿論、この様な行為をとっても嫌がられることは無いと思いますが)。また、ジャムという名称は音楽セッションに由来しており、時には即興音楽を楽しみながら踊ることもあります。このような自由で柔軟な雰囲気が、ジャムの魅力と言えるでしょう。

*(注)​​​​​​​​​​​​​​​​​日本ではまだジャム文化が十分に発達しているとは言えませんが、海外では連休や休日を利用してジャムが開催されることもあります。例えば、アメリカでは「ローカルジャム」と「大規模ジャム」が区別されています。ローカルジャムは、通常3時間以内で終了し、主に地元の人々が集まる継続的なイベントです。一方、大規模ジャムは、町外から参加者を迎え、数日間にわたるイベントとして開催されることもあります。

wcci jam California
Freiburg contact improvisation festival

ラボ / lab

曖昧な用語。​​CI のリサーチや研究を目的とした集まりや会議を指します。ラボは通常、CI に関連する実験や調査を伴いますが、始まり方や進行はさまざまです。仮説や特定の狭い焦点を起点にする場合もあれば、その結果が広く共有されることもありますが、必ずしもそうとは限りません。一部のラボは、構造がほとんどなく、形式ばらないクラスやワークショップのような形態を取ることもあります。より正式なラボでは、アイデアの交換や共有が行われますが、必ずしも深い研究を目的としているわけではありません。一方で、自由形式(オープンエンド)のラボでは、参加者の 1 人が提案するエクササイズや課題を出発点に、即興的に展開を楽しむことが主な特徴となっています。

 

*日本では、CIあいちさんが定期的にラボ&ジャムを開催しています。ラボを実際に体験してみたい方は、ぜひ参加してみてください!

contact improvisation laboratory
CI lab notes

ラボでは、ただ踊るだけでなく、メモを取ったり、お互いに意見を出し合ったりします。

ナンシー・スターク・スミス / Nancy Stark Smith

コンタクトのワークショップやクラスを受けていると(特にアメリカで)、自然と「ナンシー」という名前があちこちで聞こえてくるかもしれません。「ナンシーが〇〇と言っていた」「これはナンシーが紹介したエクササイズです」など。その「ナンシー」とは、ナンシー・スターク・スミス (Nancy Stark Smith) のことです。

*ナンシー・スターク・スミスは、CI の創始者の一人であり、世界中のCIコミュニティから「カリスマ」として称えられる存在でした。残念ながら、ナンシーは20205月に亡くなりましたが、今も多くのコンタクト・ダンサーにとって大切なメンターであり、尊敬され続けています。

 

スティーヴ・パクストン / Steve Paxton

スティーブ・パクストンは、アメリカの実験的モダンダンサー・振付家であり、1972年にコンタクト・インプロヴィゼーション(CI)を創始した中心人物の一人です。彼は、訓練されていない人でもダンスに関わることができると考え、日常動作に深い関心を寄せました。マース・カニンガムのもとで3年間踊り、偶然性を取り入れた振付を発展させた後、どんな動きもダンスとして受け入れるという考えに至りました。この革新的なアプローチは、振付の分野において世界的な影響を与えています(Wikipediaより)。

私自身、残念ながら直接お会いする機会はありませんでしたが、スティーブ・パクストンがダンス・インプロヴィゼーションや日常動作について書かれた文章は非常に興味深く、何度読んでも新たな発見があります。彼の功績について詳しく知りたい方には、Richi Owakiさまが日本語で彼の功績をまとめています:
スティーブ・パクストン(1939-2024)まとめ

CIの世界では、パクストンはこの用語集にも含まれている「スモールダンス」で特によく知られています。

 

アート・スポーツ/ art sport

舞踊家であり即興ダンス・アーティストとして知られるシモーヌ・フォルティ (Simone Forti) によるCIの説明・分類についてのお話です。CIが開発されて間もない頃、スティーブ・パクストンとナンシー・スターク・スミスがニューヨークのアーティスト仲間にCIの動画を見せ、実演を行いました。その際、そこにいたフォルティが「ふーん、これは一種のアートスポーツみたいだね」とコメントしました。この言葉にナンシーたちは大きく興奮し、その後しばらくの間、「アートスポーツ」という表現がCIを説明するための言葉として使われていました。このエピソードについて詳しくは、ナンシー・スターク・スミスの講演「コンタクト・インプロビゼーションの歴史(英語)」をご参照ください。

 

​(ボディ) サーフィング / body surfing

ログロールなどとも呼ばれ、基本的に、床の上に転がっている人の上を転がります。​クラスで練習できる基本的な「フォーム」の 1 つです。より詳しく説明すると、ダンサーAは地面に横たわり、ダンサーBはその上に、ダンサーAに対して垂直に横たわる。説明しづらいですが、実際やると言葉で伝えられない楽しさがあります(うまく体重移動を利用すれば本当にパートナーの身体上をサーフィンしている様な感覚を味わえます)。この動きを初心者に見せたり教えたりすることは、CIの他のどの動きよりも、純粋な喜びの表現につながるかもしれません。『こんなに楽しく、しかも快適にパートナーと身体を動かせるなんて!』と私もCIを始めた初期の頃に受けたサーフィングのクラスが強く印象に残っています。

 

ショルダー リフト / shoulder lift

CI の特徴的な動きの一つに、ダンサーが立っているダンサー Bの胴体上で体をスイングさせたり転がしたりして、最終的にダンサー Bの肩に飛び乗る動きがあります。この動きはさまざまな方法で行うことができますが、通常、両者にある程度の努力が求められます(例外として、非常に運動能力が高いダンサーは自力で の肩に飛び乗ることができたり、力強いダンサー Bが を簡単に持ち上げることもあります)。

*私自身、稲刈りで刈った稲の束を肩に載せる動作をイメージしてしまいますが、人と人との間でこの動きを行う際は、モーメンタム(勢いや物体の質量と速度の積)や体重移動が重要な要素になります。そのため、踊りの中で自然にスムーズに行われるリフトは、とても心地よく感じられるものです。なお、リフトには肩の上に乗るもの以外にも、骨盤を利用するリフトなどさまざまな種類があります。

 

ベース / base

リフトの下・土台となるダンサー。 これは最近ではむしろアクロヨガやアクロバットの用語になっている。 最近 CI の世界で使用されている用語はunder - dancer(アンダーダンサー 、この用語集にも含めました) 。

* 私の経験では主にアメリカやヨーロッパで用いられている用語。日本では主にリフトで土台・サポート役になる人・下の人などを耳にします。​

 

カウンターバランス / counter-balance

カウンターバランスとは、簡単に言うと、偏った重さのつり合いを取ることを指します。この用語は、以下の つの異なる方法で使用されます:

  1. 相互バランス:ダンサー同士が手や前腕を握り合い、互いの後ろに体を傾けることで、それぞれの体重が対抗し合い、バランスを保つ方法。

  2. 一方向への体重軽減:体の一部(通常は手足)を反対方向に伸ばしながら、一方向に傾くことで元の方向の体重を軽くする方法。

 

​​スコア / score

ダンスインプロビゼーションや即興動作において、「スコア」とは動きを制限したり形作ったりするための一連の指示やフレームワーク(枠組み)を指します。例えば、CI のワークショップの最後に、自由に踊る時間として「ジャム」が設けられることがあります。その際、ジャムを制限するスコアとして、以下のような提案がされる場合があります: 「重力がこの壁の方にかかっていると想像して踊ってみましょう。」これは、実際にフィラデルフィアのCIクラスで紹介されたスコアの一例です。

 

スモールダンス / small dance

非常に複雑な用語と概念です。スモール ダンスとは :

1. 常に起こっているが常に意識しているわけではない、無意識のさまざまな身体の動き。

2. スモール ダンスをより意識させるための動きのスコア・枠組みである “ The Stand ” 

の両方を指します。スモール ダンスは伝統的にCIの最初の作品と考えられているパフォーマンス、「Magnesium」 の一部です。スティーヴ・パクストンはかつて、スモールダンスを「背景の動きの雑音 . . . より興味深い活動でかき消されてしまうが、常にそこに存在してあなたを支えている」と表現しました (「The Small Dance」、Contact Quarterly CI Sourcebookp. 23 (Contact Quarterly 誌、Vol. 3、1977-78 より))。

スモールダンスの詳細に関しては、スティーヴ・パクストンによるスモール ダンスの説明を参照してください(*リンクはワシントンDCCIのコミュニティをオーガナイズしているKen Manheimerのサイトに繋がります)。​​​​​

 

クレセント(三日月)ロール / crescent roll

これは床上で行うロールの一種で、体を三日月形に保ちながら床の上を移動し、その形の中で回転する動きです。ロール中、背中は交互に伸びたり曲がったりしながら転がります。この動きは「バナナ・ロール」とも呼ばれることがあります。

CIクラスで最も頻繁に教えられるのは「シモーヌ・フォルティ・ロール」です。このロールでは、三日月形の片側全体を床に接触させ、そのまま中心方向に転がるか、手や足の方向に転がります。その他のバリエーションとして、体の中心を高くしたり、頭と足を高くしたり、頭だけを高くしたりする方法があります。

さまざまなロール方法(床で横になり転がる動き)は、写真なしで説明するのが難しい部分もありますが、スティーブ・パクストンはContact Quarterly誌の記事「Helix」(Contact Quarterly Vol. 16, 1991)で、写真付きでわかりやすく簡潔に説明しています(記事は有料です)。

CI crescent roll

テーブル・テーブルトップ / table・ table top

CI でよく見られる四つん這いの姿勢で、両手と両膝を床につけるポーズです。この時、手は肩の真下に置いて腕を伸ばし、膝は腰の真下に配置します。この姿勢と用語は、ナンシー・スターク・スミスがカリフォルニアで CI を教え始めた頃に考案されました。ナンシーは、この姿勢について、2005年のフライブルグ国際 CI フェスティバルで行われた講演「Harvest」の中で詳しく触れています。

最近では、「テーブル」という言葉が持つ静的な意味合いを避けるため、この言葉を使わない人も増えてきました。その代わりとして、「cat」(ヨガで使われる猫のポーズの名称)や「four down」、さらには「four foot」(ヨーロッパの一部で使われる用語)といった言葉が使用されています。*日本では特に「四つん這いの姿勢」という表現が一般的に使われている印象です。

 

アンダーダンサー / Under -dancer

主に CI の世界で使用される用語で、オーバーダンサーとは対照的に、リフトの下やサポートの位置にいるダンサーを指します。この用語は、アンダーダンサーが単なる静的な土台ではなく、踊りの中で積極的な役割を果たす可能性があることを強調するために用いられます。アンダーダンサーは、単にパートナー(ダンサー)を支えるだけでなく、その動きが回転やスピンなどを生み出すきっかけとなり、動き全体の流れを創り出す重要な役割を担います。

 

​オーバーダンサー / Over - dancer

主にCIの世界で使用される用語で、アンダーダンサーとは対照的に、リフトの上やサポートされる側の位置にいるダンサーを指します。詳細については「アンダーダンサー(under dancer)」の説明をご参照ください。

*「アンダー・オーバーダンサー」という用語は、私が CIに出会った 2015年頃にはよく使われていました。右下の写真では、誰がオーバーダンサーで、誰がアンダーダンサーかが明確にわかります。しかし、実際にCIを踊る際には、これらの役割は固定されるものではなく、流動的に変化します。時には、どちらがどちらの役割を果たしているのかがはっきりしないこともあります。私の個人的な印象ですが、この用語はアメリカやイギリスで使用されているもののように感じます。

over and under dancer
person of color contact improvisation

イールディング  / Yielding

“Yielding"(イールディング)は、Body-Mind Centering®(BMC) の概念のひとつで、日本語に訳すと 「委ねる」「身を預ける」「受け入れる」 という意味に近いです。BMCにおける "Yielding" の意味:  イールディングは、身体と環境(3月東京・Alicia GraysonWSAliciaは地面と空間との関係性を指摘)との関係性を深め、支えを感じながら動くことを指します。特に、重力や接地面との相互作用を通じて、身体を緊張させるのではなく、適切に「委ねる」ことで、無駄な力を抜きながら動くことを可能にします。

BMCでは、"Yielding" は単なる受動的な「脱力」ではなく、能動的に支えを感じ、適切に反応するプロセスと捉えられます。このプロセスには、以下のような要素が含まれます。

"Yielding" の主なポイント

1. 支えを受け入れる(Support・サポート

  • 地面や他者との接触を感じ、そこから支えを受け取る。

  •  例えば、床に横たわる際に体を完全に預け、地面の支えを感じる。

2. 緊張を手放す・固まらない(しかし崩れない)Alicia: ”don't freeze, don't collapse

  • 身体の不必要な緊張を解き、支えに対して適切に応答する。

  • 例えば、赤ちゃんが親に抱かれるときのように、安心して体を委ねる感覚。

3. 能動的な関わり(Active Yielding, rebound) 

  • ただ沈むだけでなく、支えを感じた上で、それを押し返すような反応も含む。

  • 例えば、歩くときに地面を押すことで次の一歩が生まれるような動き。

4. 発達運動の基盤 - BMCはよく赤ちゃんの発達の過程の動きを例としてあげます。

  • 赤ちゃんの発達過程でも見られ、"Yielding" を通じて、支えを得ながら動きを発展させていく。

  • 例えば、赤ちゃんが床に寝そべりながら、床の感触を感じ、そこから転がる動きにつながる。

 

日本語での表現例:BMCの文脈では、"Yielding" は次のような言葉で表現されることがあります。

  • 「身を委ねる」(環境や支えに適応する感覚)

  • 「支えを感じる」(外部からのサポートを意識する)

  • 「押し返しを感じる」(能動的な支えのやり取り)

実際の応用例:コンタクト・インプロビゼーション(CI) では、パートナーの身体、空間や床との関係性の中で "Yielding" を活かし、無理なく動きを展開する。

 

まとめ: "Yielding" は、単なる脱力ではなく、支えを受け入れ、そこから動きの可能性を広げるプロセス。 身体と環境、重力との関係性を深めながら、無理なく流れるような動きを生み出すための大切な概念です。

リーチ  / Reach

「リーチ」とは、身体の内側から湧き上がる “つながりたい”“広がりたい” という意図を伴った動きです。それは空間、相手、重力・地面との対話の中で、存在感や方向性、関係性を生み出します。

CI において、この「リーチ」は、即興の流れや共創の質をより深く豊かにしてくれる重要な要素です。「リーチ」という言葉はそのまま使うのが一番適していると思いますが、あえて日本語に訳すとすれば「伸ばす」「手を伸ばす」などが近い直訳になります。ただし、CIにおけるリーチは単なる動作ではなく、「支え(Support)」との関係性の中で生まれる動きでもあります。

たとえば、足を通して床を感じ、地面からのサポートをしっかりと受け取ることで、自分の中心(センター)から空間へ向かって自然にリーチすることができます。下から上への支えがあるからこそ、動きが広がり、届いていくのです。また、「リーチ」は内側の意図から始まり、身体の中心から “何か” に向かって動きを広げていく感覚を含みます。なので単に腕を伸ばす動作ではなく、「つながろうとする」「関わろうとする」気持ちが動きとして現れる身体全身のプロセスでもあります。つまり、「リーチ」は動作というよりも、内なる願いと関係性の表現であり、CI の中で他者、地面・空間とつながるための、大切な身体の言葉です。

スラッフィング  / Sluffing, or sloughing 

CI で相手の身体から床へ、または床に沿ってスライディング・滑り降る動き・テクニックのことを示す。スラッフィングは、ローリング・ポイント・オフ・コンタクト(接触点を転がす)を使うのではなくスライドや滑る動作を利用するのが特徴です。スラッフィングの典型的な例として、四つん這い(テーブルトップの姿勢)を取っているパートナーの背中に横たわった人が、ゆっくりとコントロールしながら滑り降り、床へと降りる動きがあります。

CI クラスでよく行われるスラッフィングの練習では、一人が「木」の役割を担当し、もう一人がその「木」に体重を預けながら徐々に身体を滑らせて降りるエクササイズがあります。このとき、「木」の役割を担うダンサーは、自分の身体の表面をパートナーが滑りやすいように調整することで、重要な支えとなります。

 

グレイジング / Grazing

長時間のダンスを続ける意図を持たず、短い時間や軽い接触を示す際に使われる用語です。この言葉は、ナンシー・スターク・スミスがアンダースコアの中で使用しており、彼女が CI の文脈で生み出した可能性があります。「グレイジング」は通常、非常に素早く軽いタッチを指します。たとえば、誰かのそばを通り過ぎるときに、手で軽く擦るような動きです。しかし、ナンシーはこれをさらに広げ、接触が少し多めになる場合や、非常に短い(おそらく最大で 分程度)のダンスを表現する際にもこの用語を使っていたようです。*「グレイジング」という用語は日本ではあまり耳にしませんが、私の記憶では、あるアンダースコアの説明で「動物がお互いを嗅ぎ合うような動き」として例えられたことがとても印象的でした。

*アンダースコア / Underscore 

ナンシー・スターク・スミスが1990年から研究・発展させてきたスコアです。1972年に CI が誕生した当時から実践してきたナンシーによるもので、ジャム、接触、即興、構成、そして即興ダンスのリサーチと実践のための骨組みを提供する長時間のスコアとして知られています。

アンダースコアは、その特性上、実際に体験してみないと把握が難しいスコアです。説明だけでは十分に伝えきれない部分があるため、実践を通じてその理解が深まり、何度か経験を重ねることで即興の楽しさや独特の趣を味わうことができます。また、このスコアを通じてCIや即興の多様な側面を体験できる、非常に素晴らしい構造となっています。この構造を好まない方もいらっしゃいますが、アメリカのCIコミュニティでは、月に一度の頻度でアンダースコアを実践している場所も少なくありません。

なお、i-dance japan(国際コンタクトインプロビゼーションフェスティバル)の2013年のアーカイブには、ナンシーが来日し、アンダースコアを含むワークショップを開催した際の詳しい説明が掲載されています。興味がある方はぜひご参照ください。

Underscore
Nancy Stark Smith underscore

Philadelhpia Winter Solstice Underscore 2015

アースダンス / Earthdance

アメリカのマサチューセッツ州西部にあるリトリートセンターで、芸術団体としても活動しています。CI の精神的な拠点とも言える場所であり、ナンシー・スターク・スミスが頻繁に指導を行っていたことでも知られています。*私が CIを学び始めた頃、近くに CI コミュニティがなかったため、このアースダンスに何度か足を運び、ワークショップやロングジャムに参加させていただきました。イベントには特にアメリカ東海岸の参加者が集まりやすい印象があります。アースダンスはその時々で運営やスタッフ、ボランティア体制に変化があるため私は現在の状況を把握できていませんが、環境は豊かな自然に囲まれており、ダンスやムーブメントリサーチに最適な場所です。2つの快適なダンススタジオを備えており、踊るための空間として非常に魅力的です。​

 

* コンタクト・クォータリー誌 / Contact Quarterly (CQ)

1975 年に創刊された、即興とパフォーマンスに焦点を当てたコンテンポラリーダンスの雑誌。歴史的にも最も長く発行されている、ダンサーの声に特化した非営利の読者支援型雑誌であり、アーティストによって制作されています。また、CI の普及と支援においても重要な役割を果たしてきました。2020月に印刷版の最終号となる第 45.1 巻を刊行した後、CQ はオンライン版のみの発行へと移行しました。この雑誌の主要な創設者および寄稿者の 人は、ナンシー・スターク・スミスです。彼女はCIの発展において重要な役割を果たし、CQを通じてその思想や実践を広く共有してきました。

他にCIのクラスやワークショップで耳にして、わからなかった用語はありますか?

earthdance contact improvisation

​コンタクトのわ。

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